「隊長殿。この少年は武器を所持しておりません。
故意ではなく、事故でありましょう」
[穏やかな声が、己と剣先との間に立ちふさがる。
おそるおそる顔を上げれば、柔和ながら精悍な顔立ちの壮年の武官が、威圧的な声の人物に向かい合っているのが見えた。]
「何かございましたら、私が責任を負います。見逃してやってはいただけませんか」
[頼もしい背中を見上げながら、思わす涙がこぼれそうになる。
隊列が再び動き出したのを確認すると、壮年の武官は己の手を引いて沿道へと連れ戻し、微笑んで片膝をつき視線を合わせた。]
「もう大丈夫だ。……気をつけるんだよ」
[ぽんぽんと頭を撫でられ、何度も礼を述べながら必死で頷く。
隊列に戻ってゆく彼の背中を、少年ヴェルナーはいつまでも見つめていた。]