トーマス×テオドール
扉の向こうで足を引き擦る音がする。重く疲れた、溜息のように陰鬱なそれは、一歩一歩、足を出すのが辛いのか、酷くゆっくりに聞こえた。
「テオドール」
なるたけ優しく呼び掛ける。やがて扉はぎい、と軋みながら開いて、そこから疲れた顔が覗く。軍服をモチーフにした暗く重厚なドレスの中では、その顔はとても青白く見えた。
髭を蓄えた口元がもごもごとうごめく。音はない。
俺は咥えていた石炭を離して、今にも倒れそうなその身体を受け止めに行った。
俺の指がその肩に触れるきっちり5cm手前で、
「…大丈夫なのであーる」
這うように気怠げな声が俺の指を払った。俺の横をすり抜けて、俺の相方はずるずるとベッドの方に身体をひきずっていく。
ふわり、薔薇の香り。
カナンの香水の匂いがした。