―魔王の離宮―>>1099
[ 良く訓練された駿馬なのであろう、姫騎士の駆る白馬は飛ぶような足取りで離宮への距離を縮めてつつあった。彼女が腰に佩いた剣からは単なる業物というに留まらない気配が感じ取れる。
しかし、魔王の興味は鞍上の人物にこそ向けられていた。]
ほう……、これはまた。
凛々しくも、中々の美貌ではないか。
離宮で出逢うには、丁度好い相手というものだ。
[ わずかに口元に笑みを乗せ、その襲撃者が現れるであろう彼方へ左手を向けた。]
ならば、其れなりの持成しをせねばならぬな。
……まずは、ひとつ。簡単な挨拶とゆこうではないか。
――≪魔法の矢<マジックアロー>≫。
[ 魔術師ならば誰でもごく初歩の段階で覚える基本的な術だ。
魔力の矢を生み出し、放つだけの攻撃術。
しかしこの時、魔王が掌の周りに生み出した矢の本数は――57本にも及んでいた。]
――征け。
[ 照準も合わせず、軌道制御の追尾も行わない、無作為に近い魔力の矢の射出。だが、その攻撃によって姫騎士は察するだろう。
現し身といえど、魔王が秘めた魔力は熟達の魔術師と比べても遥かに大きなものだということを。*]