負傷兵 シモン

― 狼月の村：船着き場 ―

［その男の風体は、ただの旅人や行商人にしては少々異様であったかもしれない。
薄汚れた外套は、元は上等な生地だったことを思わせるシルエットだが、既に袖口が破れ、土埃で元の色も分からぬ様。色褪せた首巻きは端がほつれてボロボロ。右膝から下に、失くした脚の代わりに棒切れを括り付けている。

船頭の助けを借りて、どうにか舟から降りたなら、その棒の脚はよたよたと、村の中央へと向かうだろう。
祭りに向けて浮足立つ村の景色を注意深く見ると、至る所に狼のモチーフが飾ってあるのに気づく。

――あれが噂に聞く『金狼』か。

甍の波を眺めた視線の奥にそびえるは月狼山。
狼の咆哮が如くに見えるその頂を仰ぎ、目を細める。

――湯治のためにここに来たのは本当だ。
だが、目的はもう一つ。

この村でなら、果たせるかもしれない……

――そんな僅かばかりの"期待"を、決して誰にも気づかれないように。

まずは当面の宿を訪ねて、よたよたと歩を進めた。］