[血臭に噎せぶ館から走り去る馬車>>0:77
悪鬼は怒り狂った。旧く貴い血を受け継ぐ貴族の息女を欲して。
『娘をどこへ逃がした』
捕えられた父親へ与えられたのは苛烈な責苦。
無残に引きちぎられていきながらも強固に口を閉ざした父親を、悪鬼は嗤った。どこまで耐えられるものか。
息女アイリスの行く先を知られるのは時間の問題。
屈せずとも、もはや生きのびる可能性を失った彼の、際限なく引き延ばされる苦痛。
そうしてディークは血親の命に抗った。
首を断って殺した。主家の当主を。自ら望んで。
高潔で、才知に長け、おおらかで優しかった男。
自らの父とも思い慕った人。
それでもまだこの時は、守れるはずの ひとを想って**]
― /記憶の瓦礫 ―