― 回想 ―
駐在武官を志したのは、あくまでも武勇を重んじる家風に則ったからだ。
デンプヴォルフ家の伝統として、家督を継ぐ嫡子には、一定の武勲を上げ、佐官以上の階級を務めることが求められる。
海兵隊も騎兵隊も、大公近侍の道が約束される近衛隊さえ避けて情報将校に拘ったのは、内地のどこかにある《帰るべき家》を探すという目的ゆえだった。
士官学校を卒業してすぐに国家情報局に入局、防諜部へと所属した。
自国に入り込もうとする間諜に目を光らせ、防ぐ部署であれば、国内の情報は手に入れやすかった。
かつての士官学校の同窓生、先輩方の同国人が現在どこで何をしているのかは、ほぼ全てを把握していたと言ってもよかった。
しかし、国内に見当たらない人物と、自国の諜報部が外地でどう活動しているかは視野の外だった。
知った時には、全てが終わったあとだ。
入学時に偽名を用いていなかったノトカー・ラムスドルフ。彼自身を除きその家族の全てが、妹の婚約者であった公国人の間諜によって殺害されたと知ったのも、開戦後のことだった。