旅人 ニコラス

― 翌朝・宿屋の洗濯室でエルナと ―

[僕の目をギッと見つめてくるエルナの視線を受け止め、顔を少し上げる。
これで帽子で隠れかけていた翡翠石が、先ほどよりはハッキリと見えるようになるはずだ。]

ええ。指摘した通り、僕には”予言を聞いて抱いた思い”を口にしたくない理由がある。

何故なら、エルナさんが”平凡な日常が続いていけばいいし、きっとそうなると思っている”と答えたからだよ。
僕と少し違う意見の人の心にわざわざ嵐を起こすようなこと、言う必要ないなって判断したし、口にして否定されたら面倒だなって思ったから。

[向けられる感情の種類に薄々気づいたので、何も隠さず正直に伝えることにした。
ただしわざわざ説明せずとも、この回答で、仕立て屋の考えとは真逆ではなく少し違う、つまり”もしかしたら平凡な日常が崩れるかもしれない”と考えていることは、少し考えたらわかってしまうかもしれない。

果たしてこの選択はどう受け止められるだろうか。]