― 公国軍前線近く ―[ 乾いた風が、微かに隆起した丘陵から見下ろす台地へと吹き下ろしている。かつては、馬達が喜んで食んだ柔らかな草の青い匂いと、花々の甘い香りに満ちていたそこに漂うのは、金錆びた血臭と戦火に焙られた家々の残骸から立ち上る煤煙ばかりだった。 ]はい。[ デンプウォルフ大尉、と呼ぶ背後からの声に応えて振り返る。 ]いえ、……昔の馴染みを思い出しておりましたもので。