― 休暇 ―[それは些細な、後から思い出そうとしても首を捻ってしまうほど些細な話がきっかけだった。船上での、酒の席での話だったのは間違いなく、誰が言い出したのかは判然としない。きっかけなど、どうでも良かったのだ。ただ時を経ても鮮明に記憶に刻まれているのは、船に降り注ぐ陽の眩しさと、波の上に響いた船乗りたちの歓声と、彼と全力で刃打ち交わした日に吹き抜けていたあの心地良い潮風の匂いばかりだ。今もなお、思い返せば心浮き立つささやかな日の記憶だ───*]