[逃れるものを追うのは本来、趣味ではない。妻を求めて彷徨うならいざ知らず、羽虫退治とは億劫限りない。されども、妻へ敵意を向けた手合を許せる筈もなく、追い立てるように真横に掻いた一閃は、幽馬の腱を潰し、獣の咆哮が濃霧の中で響き渡る。正しく、狩場と言うに相応しい惨状の喧騒。瞬間的な攻撃性は火精に劣り、舞うが如くの迅速は風精に劣るが、自身は死を招く術を知る夜影の住人。力を揮うのは、心細く鳴く愛妻が唯一人の為。>>670]