――外出先→厨房――
[厨房の勝手口からこっそり顔を出して中を伺う濡れ鼠。その手には水桶を二つと風呂敷包みにした濡れて重そうなブランケット。
…幸い厨房の主は不在らしい。
二つの水桶の中身は、未だ元気に泳ぐ比較的良型のヤマメかヒメマスかその類の魚が合わせて8匹程と、もう一方にはザリガニがごっそり折り重なって入っている…ガチャガチャ非常に姦しい。
脱走しようとするザリガニの蓋代わりに乗せたブランケットの中身は、たっぷりの山葡萄。これを見つけて気を取られた所為ですっかり濡れてしまった訳だ。
幾つか摘み食いしながら帰った所為で、ブランケットが所々赤紫色の指の形に染まっているけれど汚した本人は多分全く気にして居ない事だろう。
…――以前このまま厨房を突っ切って、泥に汚れた足跡の水溜りを点々と残し厨房の主にこっ酷く叱られたような記憶がある気がして置くだけ置いて来た扉から引っ込んだ。
ブランケットの包みの上に、山葡萄の粒を並べて書いた「EAT ME」の置手紙を残して何処かへと…*]