負傷兵 シモン

― 街中：パン屋『ハティ』前 ―

［村の中心は人が居なくなったのも相まって、昨日までの賑やかさから一変してしんと静まり返っている。
　閑静を通り越して静寂に不安になりそうになる中、パンの焼けた麦の芳しい香りが鼻孔を刺激し、村がまだ"生きている"事を教えてくれる。

匂いを辿って着いた先には『ハティ』という看板がかかっていた。

店内を遠くから覗いて見ると、窓の隙間から見覚えのある緑の帽子が見えた>>595］

（ニコラスが言ってたパン屋ってここか……）

［村に残っている唯一のパン屋って事は、今朝宿屋で食べたパンはここで作ってるのか。

　――お取り込み中の様だし、帰りにもう一度寄ってみようか。

　美味しそうな香りを背に、村の西側に歩みを進めた。］*