― 公国前進拠点・執務室 ―
[トールの直属になるという話をしていた際に向けられた、鋭い視線>>591。
ああ、疑われているな――と。
過去に請けた暗殺任務の中で、ベリアンが生き延びていた事は既に知っていたから、軍務大臣暗殺時に使っていた武器から推測されているのだろう――と。
そう察してはいるが、あえてこちらからその話に触れる事はしない。
太子殺しは、開戦派の仕業という可能性を残すべく、帝国と公国の双方で使われている種類の武器しか使わなかった。
愛用の――兄たちの形見である――独特の太刀と小太刀は、使用していない。
だから、王太子殺しのときに殺さずにおいた近衛兵や護衛官たちから、東方由来の剣術を使う刺客――という話が伝わっている可能性は低い。
公国に仕えた方の兄の太刀筋を知っている者が、もしその中にいたならば。
兄の剣術との共通点から、兄の同族の仕業と気づかれた可能性も皆無ではないが]