― デ・モール火山方面へ ―
[やがて馬上の人となり、火山を目指して進み始めた一行を、途中、後から馬を調達してきた私兵達が、次々に追いつき、追い越していく。
彼等は先行しつつ街道の様子を探り、目指す火山の麓への露払いの役目を努める者達だった。
その幾人かに、男は宿の手配を頼んだりもしたのだが]
温泉に、良い酒と美味い料理は欠かせんからな。甘いものか、大使殿は温泉饅頭は食べたことがあるかな?
あれはなかなかいいぞ。シメオンの作るプディングには勝てんが。
[近付いてきたカナンの言葉に>>531愉しげに応じた男は、声を潜めて続けられた話に、目を細めた]
私が王府の動きを知っていたと?いやいやとんでもない。何も知らなかったとも!
[嘘ではない。男がベルサリス学館の当代館長と嘗て交流があったことは、譜代の貴族達には周知の事実。それ故に、所領の位置と保有兵力から言えば有り得ぬ話だが、今回の鎮圧軍への派兵要請は男の元には為されなかった。
むしろ、いかに男を蚊帳の外に置くかを腐心した一部官僚貴族達の努力は涙ぐましかったほどだ]