[冬の香をほんのりと乗せた強い風が、中庭の木々を揺らす。
赤い薔薇の花弁が僅かに散っただろう。
陽光を失い、辺り一面灰色の世界に零れた
それはまるで血飛沫のように、美しく。
ソマリの姿は花弁の流れたその手前で、
彼の眩い金絹と同じ鮮やかさを保っていた。
己の表情はきっと、先程の彼と同じような
完全なる無を纏っていた。
ソマリの気遣いを乗せた声音が右から左へ流れるけれど
一歩を踏み出すことはもう、出来なかった。]
―――穢したくは、無い。
[友を。己が触れては、清らかな彼の心が穢れてしまう。
囁きは強い風が搔き消してくれる。
男はそのまま、踵を返して森の方角へと消えていった*]