『何だァ、その目』
[漸く逃亡の準備が整ったと。
そう告げに訪れた、その日。
何がきっかけか男は激昂し、自分の胸倉を掴んできたのだ]
『お前らよりゃマシだろうが。
皇帝をぶっ殺して、次は大公か?』
『ここを火の海にして、誰も彼もブチ殺して、国許で金に塗れて高笑いってか。
鎖の国さまさまだな。――俺と何が違うってんだ?』
[締め上げられた首もとの苦しさに、顔をゆがめる。
どうせ今日で、この男ともお別れだ。好きにすればいい。――そんな投げやりさがおそらく、男の怒りを招いたのかもしれない。]