[それでも己は結局、繰り返し逃亡者の下に通う事になった。
――一番に困惑したのは、この男が弱い者をなぶる、変態的な嗜虐癖があったことだ。
或いはその嗜虐癖による殺人衝動を利用した結果が、暗殺だった、ということなのかもしれないが。]
(――…気持ち、悪い)
[そして、男にとっては、逆らう事の出来ない己も、その獲物らしかった。
煙草の火を押し付けられたり、薄い刃物で腕を切られたこともある。
エッジの部分一面に、ごく薄く男の出身たる某家の紋章が入っているという、精緻なつくりのそのナイフを、男はやたらと磨き上げていた。
こちらにちらつかせては、反応をうかがう為に。
逃亡の準備が整うまでの間、自分は、その男の体よい遊び道具だった。
その為に己を指名したのだろうか、と疑うくらいには]