− 大聖堂 −[体当たりで突き倒した相手《ギイ》の容貌は、どこか血血親《紅卿》を連想させた。>>375理想を信じる純粋さと裏切りを知る寂寥をあわせもつ晩秋の怜悧《クリムゾン》。親戚に塔の主はいるかと問おうにも、狼の口から洩れるのは唸り声のみだから、後足で立ち上がり人の姿に戻った。襲撃の予備動作のように、獣のしなやかな動きで一礼する。] これなる黒狼《ヴォルフ》が、死にゆく者へ挨拶をする。[血の匂いに目を艶めかせつつ、指先で結ぶ指文字は紅卿を示すサイン。反応がなければ、この血を流す紅《ギィ》は闇の眷属ではないのだろう。]