…。 ここに居たのか。
[彼を見つけたのは湾岸近く、最後に焼け落ちた砦の傍だ。
未だ火の燻る気配の中を、足音を殺すことなく歩み寄る。
彼は焼け落ちた砦の壁に向かい、文字を書き付けていたようだった。
思わず足を止める。指先が白くなるまで握られた手、ぐいと乱暴に拭われた涙の跡から目を逸らすようにしてその文字へと視線を流した。]
“ 不 羈 ”
[ただそれだけだった。
それだけの文字が、黒く焼け焦げた壁の上に白く刻まれている。
ふき。と、音になく口の中に繰り返す。
誇りを、決して折れぬ心の誇りをこの男は刻んだのだ。
ゲオルグは暫し黙ってその文字を見つめて、一度瞑目をした。
己の心にも刻み込むかのように。]