― 第2エリア・ホテルの自室 ―
[ ホテルの自室に戻る。
今は頭痛の余韻も、麻酔の効きもすっかり失せ、何事もなかったように歩くことができる。
自室では、やはり気配を殺してアビィが立ち尽くしていた。
ヒトのように振舞うな、と命じたのはほかならぬ彼自身なのに。
人形のような佇まいのアビィを見ていると、不気味ささえ覚えて『ヒトらしくしていろ』などと理不尽を言いたくもなる……。 ]
どうやって一人で戻った? 不自然じゃなかったか?
[ と訊ねると ]
「『自室の機密書類の保護を優先せよ』と指令が出ていると伝えました」
[ とのこと。 ]
ふん、AIでもそれくらいの取り繕いはできるということか。
それもヒトの英知があってのものだな。
[ と余計な一言を加えるのを忘れずにいると、 ]
「イレギュラーはありましたが、次のレベルへ進みましょう」
[ と言うアビィの言葉がふだん以上に冷ややかに聞こえたのは、彼の単なる気のせいだろうか……。 ]