[足音が遠ざかりクローゼットから出て事情を説明して。
彼女がほんのすこし、和らいだような表情を見せてくれたときには、
此方の方が、ひどくほっとして。
浮かべた笑顔はきっと、顔の形を変えるだけのものではない、今の自分と近いものだったろう。
“殺されかけなくてよかった”
その言葉を、そのときはするりと受け止めて頷いた。
無論ゲオルグとの追いかけっこのことではない。
人が容易く殺されるような状況に置かれるということが非日常なのだと、まだ知らなかったから、
彼女がその言葉を口にした違和感に、そのときはまだ気づくことが出来なかったのだ。]