[人間が腕に抱いた愛し子をあやすかのように、緩やかに揺する腕。
肩に頭を軽く凭せて、夫を見上げる>>491]
いいえ、何も? ――なんにも。
[不審な態度を問い質す声。ふると頭を振り、小さく声を立てて笑う。
薄色の髪がそよぎ、抱き上げる男の首筋を撫で。
ヒトを見たことがあるかと問われれば、頷く声が、少女めいて弾む]
ええ、ええ。
私、光精の里に居た頃は、よくヒトの世界に降りていったの。
彼ら、不思議なのよ。与えられたものは、精霊や魔族よりずっと少ないの。時間も、力も、ずっと。
それなのに、寄り集まって温かな住処を営んだり、
一つ一つ石を積んで、息を呑むような神殿を築きあげたり。
そうかと思えば、同じ種族で争ったりも。
でも、凄く――…一生懸命なの。
[人里に下り彼らの目にはつかぬよう、ささやかな祝福を置き土産に眺めた日々。幼き日々に目を細め、私は好きだわ、と微笑で結ぶ]