― 地下迷宮の中心部 ―
[夫に借りた上着に身を包み、頬をあやし、髪を梳く指先に、目を細めて懐く>>524
浮世の世事に疎い光精は、その格好が時として孕む意味よりも、
膝上に掛かる裾丈を頻りに気にして、袖に見え隠れする指で引き下ろす仕草を繰り返す。
馴染み始めた柔らかな声が、手を携え共に行く伴侶として、
自分を呼び寄せる]
―――はい、貴方。
一緒に、明かず森に。貴方の森へ、帰りましょう。
[呼び掛けに応じ、威圧するごとくの重厚な扉が顕現する。
それでも満面に湛える笑みは曇ることなく。
触れ合う指を絡め、ぎゅ、と一度握り込む]