―――…例えば、あそこに赤い実をつけた木が在るだろう。
あれは多羅葉樹だ。
[秋に実を結び、落葉を緩やかに始めた庭先の樹を指差し告げる。
大樹の傍には『興福寺より』と書かれた立て札が聳えていた。]
かつては紙の代わりに使われ、葉書の元になったと言われる。
経文を写し、火で炙りて卜占に用い、七夕飾りにも使われた。
……要するに紙の足りない時代の術具だな。
[流石にこれは博識と言うよりパンフレット知識だ。と、
種を明かして彼女の傍に蛇腹折の案内を提出し。]
―――…しかし、火性に因り吉報を呼ぶと成れば、
茶を待つ間に、試してみるのも吝かではあるまい。
駄目で元々、身内の呪詛が焼け、多少排出されるなら御の字だ。
[興福寺より植樹された謂れを持つ多羅葉樹は特に火性が強い。
如何だ?と、兄らしく頼れるところを見せた男は、首を捻って傍らを伺い―――、ハタと軽く息を止めた。]