[船底に開いた穴が如何程のものであろうとも、機関室が発火していない以上は直ぐに沈むことはない。
今更沈む船を上空や何処かから狙撃する必要も、ない。]
[私は比較的揺れの少ない甲板の真ん中まで歩くと、着込んだ軍服の胸元を緩め、喉の調子を確かめて、ひっそりと口を開く。]
[聞こえなくても構わない。届かなくてもいい。]
[ただ、『不羈』と掲げていた故国を。
その心を教えてくれた人>>49を思い出し、旋律を絞り出す。]
[嘗て教えられた短いメロディは海へ出た者からの歌。
それとは異なる、海へ出る者を送る歌詞が存在していたことは、街中で民の声>>51を耳にするまでは、知らなかった。]