― 記憶の断片 ―[12年前――一介のバイオリン奏者だった父は、風花の村から山をいくつも越えた街の楽団で、己の腕を発揮する機会を得た。これで家族にも楽な暮らしをさせることができる。そう言って父は喜んでいたし母も同意見のようだったが、風花の村しか知らなかったクララは、街で暮らすことに一抹の不安を抱いていた。それでも父の演奏風景をできるだけ近くで見ていたかったから、不安を押しのけて両親についていったのだけれど。結局、6年経っても、街の空気に慣れることはなかった]