[解放された時にはどこかおかしくなっていたと思う。
その頃の記憶は少し混乱していて、曖昧で、よく覚えていない。
何度洗い流しても死臭が身体に染み込んでいる気がして落ち着かず。一人湖で泣きながら身体を洗い続けた事もある。
仲間の血肉を口にして、仲間の身体を埋め込まれ、自分はもはや人として生きる事は出来ないと絶望していた。反乱を起こした親友を恨みもした。
この頃、苦しんでいた自分にエリヴルがよく声を掛けてくれた。
仲間の反乱と死と。自分が受けた仕打ちは知らなかっただろうけれど、苦い事件の傷心に届く言葉を沢山貰った。
死んだ仲間は王子から見れば裏切り者であるけれど、自分にとっては親友であり、その血肉を身に受けて共に生きている…
そんな風に考え直せるようになった。
そのお陰で、まだ生きている。
吸血種になりたいと思った事は一度も無く。
人に戻れるなら戻りたい。けれど、最早それは叶わぬ願い。
その想いはだけまだ胸に留まっている]