[もしも ――――と、彼女は言う。軍人ならば、おそらく、殆どの者が頭に浮かべたことのある言葉。出陣前に遺書をしたためる兵も多いし、それを預かることも…しばしばある。ルート ――――と、彼女は言った。いつも姓と階級でしか人の名を呼ばない少尉が、口にした其の名前の欠片。扶翼官殿…続いて口にした音は、当代唯一人を指す――固有の呼称。ドッグタグを託したい相手。…そうか。とロー・シェンは低い声で静かに応じ、受け取るために手を伸ばした。]