――っ!?
[塔から火の手が上がっていることが見て取れた。
攻城戦を続けながら、自分たちを追い回しながら、そしてこの火計工作――発想力と奇襲好みの自分よりも一手多く動いていた事実は彼女の士気を挫くのにかなり有効打だった。
シロウに消火作業をやっている余裕がある予感はあまりしないし、煙が充満するまでにこの戦いに決着を付けられるかとなるともっと厳しい。
炎上する船から得たおたからを貯蔵している塔を捨てるのは極めて勿体無い話だが、今ならこの戦場を安全に離脱するのは難しいことではない。
この世界に来たばかりの彼女なら、おそらくおたからにこだわって判断を誤ったろう。
何かの声の影響を受けていない、この世界に来る前のように平時の決断力を発揮できる状況なら、おたからに後ろ髪引かれず即時の離脱を選択しただろう。
ただ――今の彼女は、そのどちらでもなかった。]