―シュビト中央広場付近―
[怒号の中、女の言葉には多少なりと効果はあったようだ。
それは男の声に紛れぬ女の声であったからかもしれぬ。
たじろぐ人の波を分けて進み出でるのはクロード・ジェフロイ。
ちらと目配せをして、副官らを市内に入っていった将の捜索に当たらせ、耳を傾けた彼の弁にぴくりと眉を揺らす。
白銀の鎧に木賊色の外套は騎士団の身に許されたもの。
それ故に騎士団と他の兵らの装束には明確な違いがあるのだが――それを主張しても詮無き事。]
王都の軍は武器持たぬ民に剣を振るったりはしない。
我々騎士団には王都の、ナミュール国の治安を守る職務がある。
ステファン・オレイソン殿が貴君らの上げる声を聞いて異変ありと判断し、先走って突入したのでそれを抑えに来た。
しかし只の民衆の集いに軍が向かうとでも?
我々には貴君らがナミュール国に対して反乱を企てているらしいとの情報から、派兵の命が下されている。
[騎士団の名誉を傷つける言葉には僅かに怒気を忍ばせつつ、ステファンの独断専行であった事はさらりと告げる。]