逃げ切る…そんなことを考えていた時期が私にもありました。
――こんな言葉を知っていますか?
[助力を、と口にした上官へ対する口調の箍が外れていることにも気づかず、私はとある言葉を彼女に対して諦念を孕んだ笑みととともに告げました。
家を出ずるより帰らじと思えばまた帰る、帰ると思えばぜひ帰らぬものなり。つまりは、帰らないつもりであっても、自家からは離れられないものなのですよ、と。]
そのご友人は恵まれていたのでしょう。
逃げることを許される環境に。或いは、貴女のような友に。
[少し羨ましく思えます。と言いながら。
上官の言葉回しに何かを感じるということは無く、――或いは。それは他の上官と酒を飲み交わす機会が少なかったからというのもあったのでしょうが――僅かに嬉しく思ったのも事実でした。]