[それから数年後、銀羊号に乗り込むこととなった。
行き先はアースガルド。
けれど、帰り道ではない。
自分にとってすべては、帰る道ではなくて行く道だ。
今このひととき、足元にある場所しか、自分にはないのだから。>>0:12
――それでも。
送り出してくれた養父は、別れ際に、いつもそうするように、
その大きな手でぐしゃりと叩くように土色の頭を撫でて、
にいっと、笑みを浮かべてみせたのだ。
船が順調に航海を終えたとしても、
もしかして、もう会えることはないかもしれないと、
互いにそうわかっていながら。
この船に乗る際に多少の無理を聞かせることが出来たのは、
養父であるその男の階級と、
過去に数年間、この船の船医として勤務した経歴と人脈があってのこと。
発覚すれば、ただでは済まない博打。
その男がそれを行った理由は、ひとつだけ。]