― パン屋 ―
[手入れをしていた人形を置いてパンの棚へと向かう。
寝ている間に増えたり、減っていたりするのはいつものことと陳列されたパンを確認し、奥の厨房へと足を運ぶ。
この部分は両親の代から何一つ変わらない。
広い料理台、長いこと愛用してきた型、パンの味を決める窯。
暗闇で発酵させておいた生地を手慣れた様子でささっと成形して、再び休ませておく。
パン屋なのにパン屋じゃないと初見で誤解されることがある。
それでもアンティクーショップに店が変わらないのには、ひとえに人形作りの道を進みたいという息子の趣味を否定しなかったことへの感謝の気持ちの表れであった。
まあ折り合いの都合上、伝統となんか大切なものが犠牲となったのは仕方ない。必要な犠牲だったのだ]