―学校跡地・西寮―[かつて自室として使っていた場所に足を踏み入れる。…自分の荷物はひとつも置かれていないのに。備え付けの家具がおかえりという声を幻聴する。窓ガラスはとうに割れ、かつて隣人と交わしていた合図を試すことは出来ない。積もった年月の分だけ、埃が我が物顔で床を占拠していて。一歩。二歩。進めば、足跡が来訪者の痕跡を刻む。向かい合わせの形で、壁に据え付けられたベッド。座ればぎしりと軋む音。螺旋はすっかりいかれている]