くっそ、仕方がないわねぇ……あたしが相手してやんよ。
これでもくらいなッ!
[凄絶な笑みを見せつけてくる敵将の技量からして、彼女がどんな得物を投げつけても体躯には至らずあの六角棒に打ち払われるだろう。
だから彼女は『得物を当てる』という発想を外した。
自分の身分を証明する、セルベシア高官の軍服のボタンを外し、袖を抜き――背を向けて走りながら敵将の正面に出ると、その軍服の上着を広げて空中に飛ばした。
重力で地面に落ちていくより前に、笑みを向けて追ってくる敵将がちょうどそこに突っ込むように。
布ならば打ち払って弾けるものではない――六角棒に巻きつけば振りの動きも鈍るだろうし、本人や馬などの顔にかぶさればそれこそ僥倖だろう。
上半身が薄い肌着一枚になってしまうのまではもうどうしようもない。//]