── 回想:カマキリと子ども ──
[ 生命に関わる大事故につながる可能性があったため、強く叱ったけれど。>>344
手元に視線を向けて、何度も謝りながらぐずぐずと泣くその顔を見れば。>>367
ナネッテの、焦ったような幼い怒りは、急速にしぼんでゆく。 ]
荷物が落ちて来たり、
滑ってきたりするでしょう?
危ないから、……怒ったのよ。
[ ようやく板についてきた敬語は、子供の前では溶けて消えていた。
悪ふざけの類ではなく、この子供なりの理由があるのだと思えば。
げんこつを落とした頭を撫でて、ハンカチを取り出して、その涙を拭ってやる。
しゃくりあげなから、途切れ途切れに話す、拙い説明を聞けば。>>368
どうやら手元にあるのは、カマキリの死体のようであった。
拭っても拭っても、ぼろぼろと溢れてくる涙。
子どもと接する機会の得られなかったナネッテは、戸惑いつつも。
避けられなければ、その身体を抱きしめ、ぽんぽんと頭を、背中を、撫でてやったか。 ]