― 夜も更けて ―
[日中にはオットーがいつもの調子で美辞麗句を並べながらパンを、見た目に反して気配りの効くディータは小麦粉を、と届け物があるたびに、こちらもいつもと変わらぬ対応をしていた。
だが、夜。
ヨアヒムが薬草酒とハーブティを持ってきたときには、うわべでは普段通りを装っていても、内心はとても穏やかではいられなかった。
薬草酒やハーブティーは宿のためだけでなく個人的にも楽しみにしている品でもあるのだが、そういう理由ではもちろんない。]
(今、宿にいるのを動揺はさせられないねえ…………これは間違いなくあの100年前に来たっていう猛吹雪……誰も宿から出しちゃいけない………。
でも宿の外の連中は……吹雪の大雪を越す支度なんて誰もしちゃいない。
一人でも多く、うちに避難するよう呼び掛けないとね……。)
[それを自分一人でやる、その決意はできていた。]