アガペーしか知らぬ君に、リピドーを与えよう。
なに。その内に、君の方から欲しがるようになるよ。
[聖歌を編んでいた彼には無かった色が、今は香り立つ。
白皙の肌に、瑞々しい眼。男を誘う術をもう身に着けている。
ちゅ、と小さなリップノイズを立てて額に接吻を。
途端、彼に流し込むは微かな酩酊。
放り出していたステッキが勝手に起き上がり、彼を取り返すようにざわめく原に円陣を描いた。
本来、自分以外を伴う転移は、膨大な魔力を使うが、行先は既に決めてる。我が屋敷に攫ってしまっても良かったが、何分魔界でも深層に位置する領域は瘴気が濃い。
中って気でも触れられたら興醒めだった。]