[“もし今度があるようなら、出来れば倒れる前に”>>387
――倒れたところを見られたことは、あっただろうか。
この船に乗ってから、誰にも見られてはいないはずだけれど。
今の口振りでは、まるでそのときのことを知られていたように見えて。
聞き間違いか、受け取り間違いかと首を捻るよりも早く、翠緑がすっと、先程よりも大きく、近くに見えた]
“ ”
[ ――幾度となく思い出されれていたあの船の記憶が呼び水となるように、
小さな漣が、沖合の海を運んできて、
ざあ、と。
鮮やかにつながるその記憶に、目を見開く。]
え……
[耳にした言葉を理解しきれずに、>>388
ただ、髪に触れる感触が、あたたかさが、いまとむかしの時の隔たりを、一息につなぎ、溶かすようで。
息を止める。
吐息の象る言葉のかたちが、一音一音、胸に滑り落ちてゆくのを聞く。]