― シコン港・桟橋 ―
[ぼんやりと釣り糸を垂れながら、頭の中を巡るのは過去のことやこの先のこと。
波間に揺らぐ光に女領主の淡い金髪をふと思い出す。
昼間、帝都に匿う用意があると告げた時>>189、彼女は穏やかにだが明白に断ったのだ。
船を動かすだけなら慣れた船長と船員がいればいい。
反論の言葉は呑みこんだ。
あなたがそれを選択するのならば、私から言うことはありません。
そう告げて、その話題はそれきりにしたのだ。
彼女の意思は、自分の言葉程度では覆らない。
容易に感情を覗かせない目を見て、そう思ったゆえに。]