―― 天獄の泉 ――
[自分たちに割り当てられた部屋へ彼女を運び入れる。
あとで此処の主にきちんと挨拶に向かわなければいけない。
名義上の自分の『養父』は、金で爵位を買ったとはいえ
れっきとした魔界の『お貴族様』とやらなのだ。
面倒なことだと思いながら、天蓋に覆われたベッドで
寝息を立てる彼女の姿の傍らに寄り添うようにして
ベッドの端に腰を下ろす。
柔らかな膨らみをたたえた胸元が
緩やかに上下するのを見ればほっと小さく息を吐く。
その夢見が決して善いものでないことは想像に難くないが
今はただ、その呼吸が穏やかなものであることに安堵していた]