あ、知っててくれたんだ。
うん、今日も何もなかったし、平和なもんです。
[話が勤務のことに及べば、嬉しそうに頷く。
実際、この船は“平和”だと思う。
一秒先には隣にいる奴の全身が吹き飛んで、弾けた血袋になるような状況ではない。
そう思う彼は、何処までも地上の兵隊蟻の視点で、
机上の方針決定や、交渉による調整、有象無象の勢力の鬩ぎあいといった要素もまた、戦争のファクターであるとは、想像すらしないし、
既に船内で起こりつつある、ラグナロクをめぐっての駆け引きや思惑の交錯など、知る由もない。
ともあれ、あまりに平和だから、廊下をふらふらと散歩しながら、担当部署の構造や各区画の構造、遮蔽物や非常時の設備保管場所、ヒトの動線、有事の際に有利を取れそうな場所――そういったポイントは、自然と頭に叩き込まれた。
――その“有事”が起こらないことが、一番であるのだけれど。]