[――それにしても。誰も思い出さなくてよかった。カップに目を落としながら、思い返す。] 『すいません、ちょっと水を一杯。』[見回りの最中、そう言って厨房に入った者の事を。ナイフの場所は良く知っているから時間も掛からない。それは最後の見回りの前、厨房に鍵が掛けられる以前の事であったし、あまりに日常の事だったからきっと意識から零れていたのだろう。]