―― 銀羊号/通路 ――
あ、はい。
歳は覚えてないんですよ。
数を覚えるまでは、数えられなかったからなぁ。
俺のこと引き取ってくれたオヤジが、
多分そのくらいだろって。
[年齢は、覚えていないし、確かめる術もない。
聞かれて困ることでもなかったから、素直に肯定した。
見開かれる双眸と、はっと口を噤んだ様子に、ああ、もしかして此方の事情を気遣ってくれているのかと思い至る。
自分が覚えていなくても歳を知っているのが当たり前の社会や育ち方もあるのだということを、事実として知っていても、
この年になってもやはり、別世界のことのように感じられていて。]