[ 祖父は物怖じをしない人間だった。
遭難してこの島に流れ着いた時に、自分は一度死んだと思い定めたのだろう。その態度が当時のスルジエ領主の歓心を得たのかも知れないが、得た身分に満足するような人間ではなかった。身なりを変えて山に潜り当時から関係が難しかったまつろわぬ民達とも親交を深めていたらしく、昔話を聞かされる事も多かった。
当時の自分には良く判らない事が多かったそんな話よりも、せがんで教えてもらったのが弓の扱いだった。彼らとの交流で得たという弓の扱いは、周囲の誰よりも巧みだった上、祖父はその恵まれた体躯もあって強弓の持ち主だった。太い木の幹すら矢で貫き通す事ができた。若い頃は岩をも突き刺す事ができたと言っていたが。
自分は彼ほどではなかったが、指で挟みこんで三矢の矢を同時に放つ曲芸じみた真似もできるし、人並み以上ではあるという自負>>403を持つ事ができるようになってはいたからこそ、主から見込まれた仕業だった。]