[兎に角死にもの狂いの日々が続いて、やっとの事で兄を見つけ出した時には、あれからもう何年も経って居た。
忍び込んだ豪華な屋敷の中で、花開いた薔薇のように何処かに鋭い棘を隠した侭に、凛と、美しく笑う彼を見て、
あぁ、自分はまた捨てられたんだ、と、…途端にそう理解した。
最初は母を捨てた父に、次は男と去った母に、そうして今度は、兄に――…
あの街に居た頃とは比べ物にならないくらい、美しく、そして健やかなその姿を見れば見る程、
みすぼらしい自分の隣ではなく、其処に居る姿こそが正しい姿のように思えた。
兄の口から直接、そうだと、確かめる勇気や、気力は、探し続けた日々に疲弊しきった心にはもう残って居なかった。
物分りの良い振りをして理解した心算になって…
…――その後のことは余り、良く覚えて居ない]