― 塔の正面・外 ―
……こいつぁ手強いねぇ。
散るんじゃないッ! 壁際に張りついて廻るんだよッ!
後ろが怖けりゃへばるんじゃないよッ!
[突破すらできないほど堅いわけではないにせよ、与えた混乱の深度が想定より浅い。
狼狽ぶりが足りない歴戦の勇士たち、事態を収拾させる敵将の大喝――練度経験ともにセルベシアでは見なかったレベルだ。
ましてや、略奪される弱者向けへの威圧感とロマンを追求した
彼女の想像よりも難敵であり――この奇襲は想像どおりに行かないことを悟る。
逃亡と追撃で場を荒らし混乱を極めさせようという意図は看破されたか、敵本陣部隊はこちらを攻城兵たちから離させるように追ってくる。
恐怖で四散しかねない状況下で、隊列の維持がより難しいのは正規兵でない苦しい部分だ。
それを何とかまとめようとすれば速度も鈍り、距離はさらに縮まるだろう]