― 過去:フローレンス ―
ねぇ?フローレンスは何になりたい?
[例の実験が行われる前の束の間の幸せな時間。
年中肌寒いごみの星で暮らしてきたため、多くのあかぎれと擦り傷を作った手は、もう寒さで擦りあわされることはない。
なぜなら、軍がシェルターを用意して暖を取れるようになったから。
だからこそ、未来を考える余裕も生まれ、その結果の問いかけだったのだと思う。
今までは、明日はどんなゴミが流れつき、食べれるもの、使えるものはあるだろかと日々を生きるので精いっぱいだったから。]
え?ハナ?
ハナなんて、食べられないじゃない。
それなら私は、甘いものを売るお店がいい。
[流れ着いた漂流物の中に、職業図鑑なんてものがあり、読み書きが出来ない私たちは、それを眺めて色々と話をしたものだ。
これなんだろう?と、未知のものを想像力で補いながら話していたが、教育を受けて、想像が全く外れているものも多いと知った。
しかし運命のあの日。
自分よりも順番がひとつ先だったフローレンス。
……もしあのとき、自分が先に行っていたら……フローレンスは助かったのではないかと、常々思うのだ。
自分は死んだかもしれないけれど……それでも。
彼女が大切だった。
太陽に照らされてキラキラ輝く金髪と、細めて笑う金の目。]