― エントランスホール ―
[ 魔族の間で育ったというカヤが、魔族を憎むと言いながら、過去の記憶を断ち切れずにいる事は知っていた。
それが彼女の危うさであるように感じて、傍を離れる時には護りの短剣を置いて行きもしたのだ。
敵と敵と思い切れぬ心はいつか彼女を傷つけるかもしれない。
今この時、魔と人との境界が曖昧となった外敵との戦いの場で、憎しみを口にしなくなったカヤを見ていると、余計に、そう思う。
けれど... ]
人徳、か。
[ 手が滑ったと言いながら、タイガに強化の術を送る姿を見て>>380それを止めようとは思えない。
あの魔獣がここで力を削がれれば、後の魔王との決戦が有利になると、理を図る心が囁いていても......カヤの意志を取りたいと願う、個としての心が勝る。
フランなら、きっと、なるようになると笑うだろう。
そもそも、先のことがどう転ぼうと、自身の覚悟は定まっている ]