ステファン氏を襲撃した実行犯は、氏を見て若干戸惑った様子を見せ、かつ倒れる彼を支えて丁寧に地に横たえたと言う。
ステファン氏がトライブクラフト伯の外套を羽織り影武者を務めたのは、咄嗟の偶発的な行動だが、氏と伯爵が親子であることを襲撃犯が知っていたならば驚くだろうか?
俺は驚かないと思う。むしろ親子仲の良い孝行息子が国の要人であり、和平交渉に欠かせない人物である父を庇うのは承知の上ではないかと……な。
つまり、襲撃犯は、氏を知っていて、彼を予想外に襲ってしまい衝撃を受ける立場にあった事になる。
公国人ではありえない。
……士官学校の学友かつ、帝国人だ。
そして、これは諜報の仕事ではない。暗殺だからな。
自身でも穏健派であるステファンの学友であり、更に士官でありながら襲撃実行に手を染めたならば、帝国内でも命令に逆らえぬ立場という可能性が高い。
立身に腐心する立場ということも考えられるが、そうであるなら襲撃直後の振舞いが妙だ。一貫していない。